MET(Measures of Effective Teaching)
もっと現実的に言えば、学習には指示が必要である。スキルと知識を身につけるには、指導と支援が必要なのだ。メンターやトレーナーやインストラクターが果たす役割はいずれも非常に大きい。本書では繰り返しこの考え方を取り上げる。とりあえずここでは、これを「教育者の価値」と呼んでおくにとどめよう。
優秀な教師と凡庸な教師の違いを、試験の得点、アンケート調査、動画記録などのしっかりしたデータを使って信頼度の高い方法で測定しようとした専門家はいなかった。数年前、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツがこの事実に熱い関心を寄せた。ゲイツは教師の質をテーマとしたある研究論文に出合い、メモや走り書きをびっしり書き込んだ。なぜ教育の最も基本的な問題の一つに、現代の研究ツールを活用した取り組みがなされてこなかったのか、ゲイツには理解できなかった。「研究がほとんどされてこなかったのはまったくの驚きだ」とのちにゲイツは述べている。
結局、世界一の富豪ゲイツは四〇〇〇万ドルを投じて、数十名の研究者、数百の学校、数千人の教師、一〇万人の学生が関わる大規模な研究プロジェクトを実施した。プロジェクトの一環として、授業の間、教室のパノラマ撮影を行う新しいタイプのビデオカメラが開発された。プロジェクトに参加した学生全員がアンケートに回答した。約五〇〇名が、教師のビデオ評価のための訓練を受けた。
MET(Measures of Effective Teaching〔効果的な教育の指標〕)研究と呼ばれるこのプロジェクトは二年間継続され、そこからわかった事実は本書で軽く触れたものもあるが、さらに衝撃的な形で明らかになった。例えば、調査対象となった教師のうち、学生に自分なりの考えを形成するよう促した者はごくわずかだった。意味の創出が求められる課題に取り組んだ学生はほとんどいなかった。
だがもっと興味深い結果は別のところにある。データの検証に関わったハーバード大学のロン・ファーガソンによれば、教育に関して学生の成果を高める大きな要因は二つあった。一つめは、研究者が「勉強圧力アカデミック・プレス」と呼ぶ、教師が学生に対して勉学に励むよう発破をかける度合いだ。教育者が学生のがんばりや教材への真剣な取り組みをどれだけ後押しするか、である。
二つめの要因は「勉強支援アカデミック・サポート」、すなわち教師が学生にモチベーションを感じさせる度合いである。この第二の要因は学生が自分との関連性を感じられるかどうか、学生と教師の間の個人的つながりの感覚がポイントだ。
面白いことに、MET研究の結論と本章で紹介した考え方には共通点が多々ある。具体的には、高い成果を上げる教師は学生に学業への関与を促し、対象の意味を理解するよう努力させる。つまり、優秀な教育者は学生を、頭を働かせる「活動」としての学習に深く関与させるのである。また、優秀な教師はモチベーションと支援を与える。学生が学習に意味を見いだす手助けをし、自主性と自分に関連性があるという感覚を与える。